12期の広場

12期の広場

西表島トレッキング

5組 泉 信也


 市岡時代の仲間とは川歩きを、大学時代の仲間とは山歩きを楽しんでいる。

 3月は沖縄の海開きを待って、八重山諸島に出かけた。ねらいは海ではなく、沖縄県の最高峰の茂登岳(526m、石垣島)登山、と西表島のジャングルの縦走。

 本土には無い独特の自然と風物を楽しもうということである。

 八重山諸島は日本の最南端にあり、唯一の熱帯雨林気候帯に属している。その中で石垣島は平地が多いので古くから開発が進み、飛行場もあって八重山の中心として賑わっている。西表島は石垣より大きい島だが、平地が少なく亜熱帯自然林に覆われ、川には多くの滝が懸かっている。観光が主産業だ。

 両島とも生物相は豊かでイリオモテヤマネコに代表される固有種もたくさん知られている。また石西礁湖と呼ばれる多彩なサンゴ礁も魅力である。
 

 ジャングルトレッキングは西表島の最長河川、浦内側(19km)の河口からマングローブの林をクルーズ船で遡上して始まる。あたりにはヒルギの呼吸根がひしめき、サキシマスオウが大きな板根を張りだして、亜熱帯照葉樹林の真っ只中を進む。軽装の観光客のなかで、重いザックに山靴のいでたちは浮いている。

 軍艦岩で下船して歩きはじめるとほどなく、二段の大きなマリウドの滝を見下ろす展望台、さらに進んでカンピレーの滝。岩畳を浅い流れが洗う滑滝で、水遊びを楽しむ人もいるが観光はここまで。

  足首や襟元にヒルとハブの対策をして、いよいよ山道に取りつく。足元は細く滑りやすいが、道標は島の南端の大富登山口までしっかり整備されていて迷う心配はなさそうだ。樹相はシイ・カシ・ヤシの類、スオウ、木性シダ、クワズイモ等が密生。さらに着生のオオタニワタリや蔓性植物が絡みつき、見通しのきかない山道は、風が通らずサウナの中を歩いているようだ。転石には苔がつき、粘土質の道は油断するとすぐ転ぶ。川の流れは緩いが、淵が多いために高捲く個所も多く、重荷を背負ってのアップダウンのくり返しは苦しい。手ごわいトレッキングになりそうだ。

 自然保護のため、コース中で幕営が許されているのは、かって営林署の作業小屋があった第二山小屋跡だけ。狭いが水場も近く快適な空間に、担いできた2張りのテントを設営する。南の島の日暮れは遅いので、近くのマヤグスクの滝を探検に出かける。かすかな踏み跡をたどって大岩を乗りこえ、裸足で膝までの渡渉を繰返すが、滝の上部が遠くに見えるだけでいっこうに辿りつけない。マヤグスクとは「ヤマネコの城」の意だが、ヤマネコにも出会えず、幻の滝と云われる所以を納得した。

 夕食はテントの外で。軽量化のためにアルファ米やフリーズドライ食品を多用、簡単に美味しいものがいただけるのは昔のキャンプと大違いで有難い。

 日が暮れると同時に森の奥に小さな光の点が出現。あっという間に数を増して、身体を包むように、ホタルが幻想的な光のショーを繰り広げてくれる。ヤエヤマヒメボタルと云って極めて小さく、発光時間も短いようだが、後の漆黒の闇とともに忘れられない旅の思い出となった。

 二日目は6時起床、ヘッドランプをつけて朝食。

 前半の山道はロープにすがる高捲きもあり、倒木も多くコース中でもっとも歩きにくいところが続く。変化に乏しい林相のジャングルを、ひたすら前進するだけで、小さい頃に叔父に聞いた、南方戦線での行軍の苦労話を思い出す。

 中間点の第一山小屋跡で手早く昼食を済ませ、最後の渡渉点で火照った足を冷やし、残ったエネルギーをふり絞って、南に流れる仲間川との分水嶺を目指す。峠から吹き下ろす風を感じたところで、大きな道に出くわすとそこは大富林道の終点、下山口であった。ジャングルトレッキングは突然終わり、眼下に広がる仲間川のゆったりとした流れ、マングローブ林の緑、その先の真っ青な海に長い緊張がほぐれる。

 予定より大幅に遅れたため、島に数少ないタクシーは終業。さらに宿までの2時間を歩く羽目となり、今日の行動は10時間半の長丁場となった。

 珍しい地魚と島料理の数々、とっておきの泡盛で乾杯。久しぶりに苦労したが、全員無事に歩き通すことができ、強く記憶に残る山旅となった。


余談
1.西表島には明治期に開拓された炭坑跡がある。富国強兵策のエネルギー確保のため山縣有朋、益田孝なども訪れ、後に囚人や韓国、台湾などから連れてきた俄か坑夫達が、酷暑とマラリヤの中で使役されたという悲惨な歴史があることを、地元で聞いた。
2.泊まった民宿の主人は今話題になっている竹富町の教科書問題の中心人物で、島の環境問題にも取り組んでいる。当たり前のことだが島人にとっては、観光だけの島では無いことを知った。
2014年3月18-19日

“西表島トレッキング” への1件のフィードバック

  1. 田端建機 says:

    この歳になって、こんなトレッキングができるなんて、どうなってんの。元気だね、羨ましいかぎり? その内、パタゴニアの氷河の崩落だとか秒速七十メートルの激風、あるいはヨーロッパ最北端のノールカップ岬からの絶景、等の体験を語ってもらえると嬉しい(お前が行け?金も気力も体力もありません、悪しからず!)。マッケンジーあるいはユーコンの川下りの途中、市岡卒業生、ヒグマに襲われるなんて記事が見れるかも。今度の同窓会、会えるのを楽しみにしています。

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