12期の広場

12期の広場

思い出を綴る(4)

3組    石井 孝和
 「ようこそBKへ」と明るい声で歓迎のあいさつを始めたのは大阪中央放送局の高野局長だった。
高野局長は、事務系・技術系で採用された計約20人を前に静かな口調であいさつを続けた。
 「ここ大阪中央放送局のことは“BK”の愛称で親しまれていますが、多くの方が建物の位置が馬場町の角にあるため、そう呼ぶのだと思っておられるそうですが、実は、ラジオのコールサインが大阪はJOBKであることからJOの2文字を飛ばして“BK”というのです。
 同じように、コールサインは、東京がJOAK,名古屋がJOCK,熊本がJOGKと、放送局の免許がおりた順につけられているのですが、愛称で呼ばれているのは大阪だけのようですね。
また、NHKは“半官半民”と世間で言われていますが、国内向けの放送はすべてNHKと契約した受信者からいただいた受信料で成り立っているので“官”は入っていません、いわば“全民”と言っていいのです。
 皆さんに言っておきますが、受信料はNHKに勤めているからといって、割り引きなどないのですよ。当たり前に支払っていただきます。NHKは、イギリスの『BBC』やイタリアの『RAI』あるいはフランスの放送のような『国営放送』とは違うのです。つまり“受信料”というのは、あくまで良識をもってお支払いいただいているもので、“税金”ではありません。
アメリカの放送局は、日本国内のNHK以外の放送局と同じ『商業放送』で、企業のコマーシャルの収入で運営されているのですよ。それからNHKに入られた皆さんがこれから仕事に就かれるにあたって知っておいてほしいことは、NHKの正式名称は『日本放送協会(にっぽんほうそうきょうかい)』という特殊法人であることで『放送法』や『電波法』に基づいた組織であるということです」と、局長のあいさつは訓辞に変わってきていた。
 そして局長の最後の言葉が、NHKで働くわたしの心構えとなる示唆となった。
北村先生から返却された夏休みの宿題
読書感想文
 その言葉とは、「放送法の条文には、・放送は不偏不党であり・放送の自由が確保される。そして放送は健全な民主主義を貫くなどと記されています。」だった。
 去年(2014年)10月11日のこと。私たち市岡高校12期生の同窓会の準備打ち合わせが母校で行われ、わたしもお手伝いで出席した。その際、同窓生全員に、1年生のときに書いた作文が北村先生から返却されるということで、それぞれの原稿が「同窓会ご案内」の封筒に同封された。
この封筒を受け取られた同窓生の皆さんは一様に感激されたことでしょう。わたしなどは、作文を書いていたことなどすっかり忘れていたし、何より驚いたのは作文の表題でした。生意気にも「民主主義とは!」だってさ。――
 放送局の4階に「報道部」の部屋があった。エレベーターを降りて廊下を進むと、その突き当りにドアが開け放された部屋にたどり着き、緊張しながら初めて足を踏み入れた。
“活気に満ちた職場だな”というのが第一印象だった。
昭和36年頃の大阪中央放送局報道部
 あとで知ったが、この職場には電話の他、無線機や各放送局と結ばれているテレプリンターと呼ばれる機械が備わっていて、それが可動しているとガシャガシャと工場並みの音を響かせるのが“活気”の印象をもたらせたようだ。
 部屋で最初に紹介されたのが、報道部長の木村正勝さんであった。 部長の木村さんは、手塚治の漫画「鉄腕アト」ムに登場する“博士”にとてもよく似た髪型で、背丈はわたしとそうかわらない小太りの人だった。
 この人が、後に東京の報道局次長になって、それまでテレビニュースで項目ごとに流していた音楽を“ニュースは情緒に流されてはいけない”として一切やめさせ、”実音“を多く取り入れる現在のスタイルを確立させたことを後に伝え聞いた。
 当初、わたしは報道部長を親しみ込めて「木村さん」と呼んでいたところ、先輩の一人が「石井君、ここは報道部という組織やさかい”木村さん“ではなく”部長“と呼ぶ方がええで」と大阪弁で注意してくれたので、それ以来「木村部長」と呼ぶことにした。決して「部長さん」とは呼んだことはない。木村部長のことは部内では“元帥”とも呼ばれていたそうだ。
テレタイプを打つ私・石井孝和です
(昭和36年頃)
 木村部長は、わたしをまるで子どものように見ていて、やさしい口調でわたしがする仕事の内容や直通電話がどこと結ばれているかなどを丁寧に説明してくれた。ただ説明している間、時々、鼻をクンクンといわせているのが少し気になった。けれどそれを“なぜ”と尋ねる度胸はなかった。またその必要もなかった。単なるクセなのだろう。
 説明を受けた仕事とは・・・・・
 記者が電話で送ってくるニュース原稿を、カーボン用紙を挟んだ大きさB5の二部取り原稿用紙に、芯の硬さが3Bの「三菱鉛筆」で書き取ることをはじめ、デスクが手直しした原稿を正式にはテレプリンターと呼ばれるタイプライターを使って、東京など他の放送局に送ること。
 逆に、文章が平仮名で打ち出されるこの“テレタイプ”で送られてくるニュース原稿を、平仮名を漢字に変えながら、しかもアナウンサーが読み易いように清書すること。
当時の原稿用紙に3Bの鉛筆で書いた
ニュースのリード
 天気予報の原稿を大阪管区気象台から「大阪府 あす・西の風 くもりのちはれ」のように受け、それをもとにテレビで送出すること。 ラジオの第二放送用に東京・大阪・京都・神戸の株式市場の上場銘柄すべての値動きを電話で受け、それを反復すること。「東京海上344円3円安、三菱地所 57円5円高――」というように。 木村部長は、こんな仕事の数々をおおよそ説明した後、大阪府警察本部の記者クラブとの直通電話のハンドルを勢いよく回し、例によって鼻をクンクンいわせながら「府警キャップ」に号令した。  (次号につづく)

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